【王座戦】藤井七冠が拒否した三間飛車

 藤井七冠は、いつも王者の将棋を指します。戦型は、角換わり・相掛かりであれ、横歩取り・雁木であれ、相手の誘いに乗って駒組を進めます。そして中盤辺りで相手の緩手を見逃さずにとがめ、そこから一気に自分のペースに持って行くのが多くのパターンです。

 藤井七冠が、相手の戦型誘導を拒否することは、ほぼありません。名人戦の第3局・第5局で角換わりを拒否したようにも見えますが、実際は渡辺名人(当時)の真意である雁木の誘いに乗った、というのが本当のところかと思います。

 しかし、叡王戦 第4局で、恐らく初めて、相手の戦型を拒否しました。それが三間飛車です。

菅井八段の三間飛車

 叡王戦では、千日手も含めると、菅井八段は計6回 三間飛車を指しました。結果は 3-1 で藤井叡王が防衛したのですが、苦しい局面が続きました。

後手△藤井叡王      先手▲菅井八段

 そして極めつけは、決着をつけた、第4局の再指し直しの44手△72飛(上図)、藤井叡王は第4局その1の千日手局面と同じ形に誘います。ここで千日手を避けたかった菅井八段は45手▲58飛と中飛車に振り直し、すると55手で藤井叡王がリードを掴み、そのまま藤井曲線で勝ちました。

 即ち、藤井叡王が菅井八段に三間飛車をやめさせた1局でした。こんなことは、藤井叡王のプロ入り以来初めてかと思います。それほど三間飛車に苦しんでいたのでしょう。

豊島九段の三間飛車

 叡王戦 五番勝負が終わって、6/2(金)の王座戦 挑戦者決定トーナメント 1回戦、▲豊島九段-△本田六段戦で、豊島九段は三間飛車で勝ちました。

 豊島九段は、最近はほぼ居飛車しか指しませんが、昔は時々振り飛車も指すオールラウンダーでした。だからそんなに突飛ではありません。ただ、このタイミングで三間飛車を持ってきたのは、決勝で当たるかもしれない藤井七冠との対戦の準備かもしれません。実戦で指さないと、勝負勘が戻ってこないという点があるのでしょう。

 作戦ばれる?、いやいや、そういうことを気にしないのが豊島九段です。

王座戦の相手

2023 王座戦 挑戦者決定戦 藤井聡太七冠
藤井聡太七冠 豊島将之九段
羽生九段 藤井七冠 渡辺九段 豊島九段
斎藤 羽生 藤井 村田 石井 渡辺 斎藤 豊島
大橋貴洸七段 斎藤明日斗五段 久保利明九段 羽生善治九段 藤井聡太七冠 中川大輔八段 村田顕弘六段 木村一基九段 石井健太郎六段 高見泰地七段 澤田真吾七段 渡辺 明九段 斎藤慎太郎八段 近藤誠也七段 本田 奎六段 豊島将之九段

 王座戦は1回戦が終わってベスト8が出そろいました。実績からすれば、ベスト4は、羽生九段・藤井七冠・渡辺九段・豊島九段が順当な見方でしょう。

最近は昔は
羽生九段居飛車党オールラウンダー
渡辺九段居飛車党オールラウンダー
豊島九段居飛車党オールラウンダー
永瀬王座居飛車党振り飛車党

 羽生九段も昔はオールラウンダー、去年・一昨年と合わせて3局、三間飛車を指しています。

 そして、渡辺九段・豊島九段も。

 もし藤井七冠が王座戦の挑戦者になったなら、五番勝負の相手は永瀬王座です。昔は振り飛車党でした。

 2021/8/21の竜王戦 挑戦者決定三番勝負 第1局、▲永瀬王座-△藤井二冠(当時)で、永瀬王座は三間飛車を指しました。結果は藤井二冠の勝ちでした。(この年に竜王奪取)

 永瀬王座は、この後の藤井七冠戦では、角換わりや相掛かりを指しました。時折勝ちましたが、敗戦の方が多い状況です。

 さて、叡王戦の結果を見て、永瀬王座は、再度三間飛車を指すでしょうか。

 こうすれば藤井七冠が悩む、という実例を、菅井八段が叡王戦で沢山見せてくれました。これは対戦相手にとって重要な参考資料となるのでは。

 勿論、藤井七冠はとても強いのです。菅井八段よりうまく三間飛車を指すくらいの自信がないと、なかなか藤井七冠には勝てないでしょう。しかし、そう思っている棋士がいるかもしれません。