【名人戦 第3局】藤井竜王 何故苦手な戦型に?

 名人戦 第3局は、渡辺名人が勝って 1-2 としました。両棋士の対戦成績は、これで藤井竜王の18勝4敗。藤井竜王の敗因は何だったのでしょうか。

苦手な先手矢倉/後手雁木

 下図は、昨年の王座戦 挑戦者決定トーナメント 1回戦、大橋七段に藤井竜王が敗れた時の34手目です。赤丸、先手の大橋七段の77銀に対し、後手の藤井竜王は43銀と構えました。

後手△藤井竜王  34手  先手▲大橋七段

 更に下図は、一昨年の王座戦 挑戦者決定トーナメント 1回戦、深浦九段に藤井竜王が敗れた時の30手目です。赤丸、先手の深浦九段の77銀に対し、後手の藤井竜王は43銀と構えました。

後手△藤井竜王  30手  先手▲深浦九段

 この▲77銀△43銀の形で、後手の藤井竜王は王座戦で敗れ続けました。

 そして下図は、今回の名人戦 第3局、渡辺名人に藤井竜王が敗れた時の35手目です。赤丸、先手の渡辺名人の77銀に対し、後手の藤井竜王は43銀と構えてあり、同じ形です。

後手△藤井竜王  35手  先手▲渡辺名人

 実は、昨年の王将戦 第4局では、この▲77銀△43銀の形で、後手の藤井竜王が先手の渡辺王将に勝っています。いつも負けるわけではなく、勝つときもありますが、苦労して勝つという結果です。

 得意の角換わりや相掛かりではスカッと勝つ藤井竜王ですが、▲77銀△43銀の後手番では、敗れるか、苦労しながらも抜群の終盤力で何とか勝つというのが、これまでのパターンです。

何故、苦手な形に

 それでは、何故、苦手な形に進んだのでしょうか。
 下図は、通常の角換わり手順の9手目です。これであれば、後手の藤井竜王は、10手目△77角成と指し、得意の角換わりに進んだでしょう。

通常の角換わり手順 9手

 一方下図は、今回の名人戦 第3局の9手目です。後手の藤井竜王は全く同じ形です。
 しかし先手の渡辺名人は、
・飛先、25歩を保留
・代わりに78金を先に指している
という違いがあります。

後手△藤井竜王   9手  先手▲渡辺名人

 この形は、角換わりにも、矢倉系にも、どちらにも進める形です。
 実は、昨年の竜王戦 第1局、先手の広瀬八段と後手の藤井竜王の対局の9手目と同じ形です。
 その時の藤井竜王は、10手目△77角成と角換わりに進め、結果敗れました。その反省から角換わりではなく、今回の名人戦 第3局では、10手目△44歩で角道を止め、矢倉系に進めたということが考えられます。

 しかし、別の理由が有力のように思っています。

 それは、藤井竜王が課題克服に挑戦する人だということです。

 棋士は指し手で会話すると言われています。今回の名人戦 第3局の9手目・10手目で、こんな会話があったように思います。

9手▲88銀:渡辺名人「藤井君、君の得意な角換わりにも、課題の先手矢倉/後手雁木にも、どちらにも進めるよ。どちらを選ぶ?」

10手△44歩:藤井竜王「それでは、先手矢倉/後手雁木で、課題に挑戦したいと思います。」

 藤井竜王の、課題に挑戦し続ける姿勢が、20歳にして七冠に挑戦するという成果につながっていると思います。

 渡辺名人も、藤井竜王はそういう選択をするだろう、と予想して、この形に進めたのではないでしょうか。